ソートベーカリー

小麦粉をこねてパンを焼くように、頭の中で考えたことを文章にしていきます。

くちづけパン

知的障害者とその家族や周辺の人たちの関わりの中で生まれる、楽しさと苦しさと奥深さを身に染みて感じた。

 

映画『くちづけ』はそういう作品だった。

くちづけ

くちづけ

  • 発売日: 2014/10/22
  • メディア: Prime Video
 

 

グループホームで暮らす知的障害者たちとそこに新入りスタッフとして入る漫画家の愛情いっぽん先生と障害を持つその娘マコちゃんとのやり取りをほぼワンシチュエーションで進めていくコメディ映画。

 

と思って観るのが1番良いと思う。

 

  • 知的障害が故に近所にかかる迷惑
  • 息子の障害者年金を自分のことに使う親
  • 知らない人にもニコニコとついて行ってしまって起こるトラブル
  • 兄弟に障害者がいることで諦める結婚

などなど障害者の周辺で起こる可能性のある様々なことが登場人物と観ている僕らの頭を悩ませる。

だけどその場に無邪気に入ってくる当事者たちのおかげで、皆の心がリセットされてまた笑顔に戻れる。この感情のジェットコースターが本当に絶妙だ。

 

劇中に“事件が起きるとまず知的障害者に容疑がかかる”という言葉がある。取り調べを受けた知的障害者は頭が混乱してあたふたしてしまい余計に怪しく見えてしまうだろうし、やってないものも「やりました」と言ってしまうこともあるだろう。実際にそうやって冤罪にかけられた事例も少なくない。

ちょうど今日知ったことだけど、取り調べの刑事さんに恋をしてしまい、その刑事に都合の良いように答えてしまった障害者もいたという。

こういうのを聞くと、もの凄く悔しくて悲しくなる。

 

もう一つ、劇中に出てくる南ちゃんという女子高生が気になった。

いかにもなギャルの格好をした彼女は「え、知的ってやつ?キモいんだけどー」と平気で口にする。明らかに嫌なキャラクターなんだけど、これは映画ということで誇張してこうなったのかなと思う。

実際はこんなに直接口にする人はいないだろうけど、心のどこかで自然に障害者に距離を置く人は割と多いんじゃないだろうか。場合によっては僕だってそうだと思う。

南ちゃんみたいな差別観が、実際の社会の中に内包されて一見わからないところにあることが本当は恐いような気がする。

 

そしていっぽん先生とマコちゃん。

障害を持つ娘を1人にできないというのは親なら当然思うことなんだろうけど、やっぱり永遠にそれは続かない訳で、本当にずーっと一緒にいてしまうといざという時にその子は別れを受け入れられなくなってしまうことの恐さも感じた。

 

原作者であり、主人公の知的障害者うーやんを演じる宅間孝行氏の思いがふんだんに詰め込まれた映画なんだろうなとわかる。

いろんな人に観てもらって、いろんな人の感想を聞いてみたい。