ソートベーカリー

小麦粉をこねてパンを焼くように、頭の中で考えたことを文章にしていきます。

エストニアパン③成田

うどんが食べたい。

 

早めに搭乗手続きを済ませてベンチに腰掛けた途端にそう思った。これからこの国を離れることを胃袋が名残惜しんでいるようだった。しかし今更食べられるはずもなく、10日間をなぜか我慢の気持ちで過ごすことになる。搭乗時間を待っていると不思議なアナウンスが聞こえてきた。

「スタッフのお手伝いをご希望のお客様は〇〇番ゲートへ・・・」

ん?どっちだろう。

普通に考えれば、持病や障害など搭乗時に添乗員のサポートが必要な人を呼んでいるアナウンスと捉えることはできるが、この文言だと、自ら進んで添乗員の仕事を補助する役割をやってみたい人が集まる可能性もあるのではないか。日本語は複雑だなぁと考えながら機内に乗り込む。

 

隣の席のおじさんが気になってしまう。

貧乏ゆすりをしながら右手はギターをつま弾くように動かし左肩を時々ぴくっとさせる。めっちゃ気になる。

 映画『ちょっと今から仕事辞めてくる』を鑑賞。仕事の内容は違うが安易な気持ちで入社して、妙に真面目がゆえに深夜まで頑張って、家族や周りの人に迷惑をかけて、一人で闇を抱え込んで、明日が来なければいいのにと思い詰めるところから、ついに辞めることを伝えて会社を後にした時の気持ちまで、完全に2年前の僕の話だった。前の職場での僕はこんな気持ちだったと思い出させてくれる。そしてそんな時代を経た僕が今自分の意志でエストニアに向かっているというこの変化を感じて今の仕事に出会えたことに感謝したい。

 映画『オデッセイ』を鑑賞。火星に取り残された男と、彼を救出するNASAの話。もちろんフィクションだけど僕が見ていたのは登場人物の心の内側だ。仲間を置いてきた飛行士メンバーは帰還中に気持ちを切り替えていたのに、仲間が実はまだ生きていると聞かされると大きなショックと申し訳ない気持ちに苛まれる。地球で指令を出す人たちもなんとか救出を成功させたい気持ちから休む暇なく作業を進めなくてはならない。当然主役のマットデイモンも冷静に生き延びる場面、危機的状況に追い込まれる場面、希望が出てくる場面など究極の孤独に追い込まれた人の気持ちを表現しているのが途轍もない。

 

そして飛行機はヘルシンキ空港に着陸する。