ソートベーカリー

小麦粉をこねてパンを焼くように、頭の中で考えたことを文章にしていきます。

コロナの記憶パン

NHK「100分de名著」の『ペストの記憶』の回を観た。

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およそ350年前にロンドンを襲ったペストを題材とした“小説”と呼ばれるが、その内実は当時の資料を細かく調べ上げた著者デフォーの記録集とも言えるもので、当時起きていたことが克明に記されている。

 

例えば、ペストの感染が始まった頃は街の人同士が怖がって互いに近づかないようにしていたり、感染した人が街に出て「俺はペストだ」と急に抱きついたり、といった当時の様々な出来事が記録されている。

 

これを聞くだけで、誰もが「今、起きていることだ」と感じるだろう。

350年前の感染症でのことが、2020年のコロナ禍に重なるのが面白い。

 

“ペスト禍”の中で空き家から盗みをする人もいれば、貧しくて困っている人を助けようと尽力する人も現れる。

全体が混乱状態にある中で、法律やルールが意味をなさなくなり、善悪の基準が揺らいだ時に、「自分の中で今出せるベターを選ぶ、けれどもそれがいつもベストな判断だと思い込まない」ことが大切だと思い知らされる。

 

この番組を観ていて気付かされるのが「記録」の重さだ。

デフォーが『ペストの記憶』に記していたから現代の僕らはそこから「コロナのヒント」を得ることができる。全く同じものではないんだけど、恐怖や安堵から生まれる行動はとてもよく似ている。

だから歴史って大事なんだな。歴史と同じことは起こらないけど、似たようなことは繰り返し何度も起こる。過去に似たようなことが起きていた、という事実を持っておくだけで人の心は穏やかになるような気さえする。だから勉強って大事なんだ。

 

そしてその「記録」はペスト禍を生き残った人が残してきたものだということも忘れてはいけないと思う。幾つもの苦しみや悲しみを乗り越え生き延びた人が記録を残していてくれたから今それが読み解かれている。そこにはペストで亡くなった人の分の思いも含まれているに違いない。だから同様に今生きている人は未来の為に「コロナの記憶」を残しておく義務があるんじゃないだろうか。

 

『ペストの記憶』の最後には、ペスト禍を乗り越えた人々が悲惨な出来事を忘れてしまったかのように死体を雑に扱い新しい街を築いていく様子が描かれている。

そうならない為に、感染したかどうかに関係なく、亡くなった人や経済的に苦しんでいる人のことを思い、今起きていることを直視していく必要がある。