僕はもうわかんなくなってきた。
過去に酷いいじめをした人がいた。彼は後にそのことを面白おかしく語っていた。そしてこの度彼は大きな仕事を任された。
世間は彼をバッシングした。その仕事には相応しくない、と。その批判は止むことなく、そしてついに彼はその仕事を降りることにした。
僕は自分が納得いかない点を整理するために、問題点をいくつかに分けて考えてみた。
ポイント① 過去のいじめ
学生時代に酷いいじめを行ったこと自体は本人が深く反省すべきことだと思う。いじめられた側は心的外傷後ストレス障害(PTSD)に長らく苦しむこともあり得る為、簡単な謝罪で済まされることではない。「いじめ」という言葉は軽すぎ、「犯罪」と思えるほど凄惨なものだった。
ポイント② インタビュー
彼は悪びれるどころか、こんなヤンチャだったんだといった類の笑い話のひとつとして過去のいじめを語った。
この時点で何ひとつ自分の行いの重大さに気づいていない。
といってもこれは20年以上前の雑誌の記事で、インタビューの背景としてはまだまだ誰かを笑い者にする空気感が強かったことは否めない。2021年のコンプライアンス感覚で判断はできない。
また、面白おかしく話している限り、脚色された部分があるのも確かだろう。実際に何が起きたか、とは離して考える必要がある。
ポイント③ 大仕事
国際的な大仕事に関わっていることが発表されると、彼への強烈なバッシングが始まった。
ここがまず謎なんだけど「彼は過去にこういうことをしてたんだ」ということをどうして今まで知らなかった人にまでわざわざ伝えるのか?
「彼の名前が入っていると気持ち悪い」と言う人がいるが、この人は多分何も知らなければそのまま彼の仕事を見ていた人なんじゃないだろうか。
「嫌な気持ちになった」と怒っていた人もいるが、わざわざ過去の記事を見に行かなければよかったのではないか。
つまり、このタイミングで怒っている人の多くは元々は彼に興味なかった人なんじゃないのかと。新しい悪者を見つけたことで怒りに着火した感じがどうしても拭えない。
これ以前から問題視していた人はこんな勢いで怒らない気がするし。
ポイント④ 投石
「悪いやつだ!石を投げていい相手だ!」と判断した人々は皆でこぞって石をぶつけ、ついに彼を倒し大盛り上がりを見せる。
これは皆が批判している“いじめ”そのものではないのか…?
そしてそのことに達成感を覚えることは、結局その石をぶつけた相手と同じことをしているのではないのか…?
ここが本当に理解できない。はっきり言って僕が信頼する「世間の空気に流されず自分の考えで行動をする人」やメディアもこの件については石を投げる側に回っていたのを見て僕の感覚が麻痺してきた。自分の考えが間違っているのだろうかと。
ポイント⑤ いじめを許さない
上にも書いたように、いじめを受けた側には後々まで影響が残ることがある。
だからかつていじめを受けてきた人や、いじめで苦しんだ人が身近にいる人にとっては尚更今回の件が許せないと感じるのだろう。
しかし、誤解を恐れず言わせてもらうと、そのいじめの加害者は彼ではない。自分が受けたいじめの加害者を憎むのは当然の理として理解できるけど、彼をスケープゴートにして憎むことは何の解決にもなっていない。
彼を憎むことができるのは彼が直接苦しめた人のみじゃないか?
そんなことより、本当に許せないと思うのならば、今まさに身近に起きているいじめや嫌がらせについて、同じ熱量で怒って欲しいと僕は思う。
ポイント⑥ いじめをなくす方法
僕もいじめや差別をなくしたいというのは大事なことだと思ってるんだけど、いじめや差別をした人を強く糾弾している人はこれまで一度も誰も傷つけていない自信があるのかと訊きたくなる。
誰しも(子供の頃なら尚更)無意識の言動をきっかけに誰かを傷つけてしまうことはあるはずで、その自覚が全くないということが一番恐いと思うんだ。
じゃあいじめや差別をなくすにはどうすればいいのか。その方法は差別的な言動をした人を貶めることではなくて、これからの自分が誰かを傷つけてしまう可能性を減らしていく努力をすることなんじゃないか。
それはつまり、他人の気持ちを理解する想像力の引き出しを沢山持つことだ。
まとめ
あまり時事ネタをブログに書きたくないんだけど、今日は心が動揺しすぎて何か整理しなくてはという気持ちにさせられたから書いてみた。
その大きな原因はポイント④に書いたことで、本当に僕の見る限り誰もがひたすら彼のバッシングに向いていたことがなんだか恐かったのだ。
僕は彼のことを全く知らない。過去の悪事も本来の仕事ぶりも知らないので、別段評価することなんかない。
わざわざどんないじめをしてきたかなど調べたりもしなかったが、いろんな人がリツイートするので嫌でも把握していった。そして爆発的に批判の声“だけ”が増えていったこと、そして辞任を表明した時の盛り上がり…。
これを見て僕は人間という生き物が恐くなった。『美女と野獣』でガストンの「野獣を殺せ!」の声に湧き上がった民衆と同じ恐ろしさを感じた。
最後に高橋優の『CANDY』を貼っておくことにする。これはいじめ被害についての歌だが、こんな歌詞がある。
憎しみの色に染まらないように
馬鹿な大人にならないように
あの人たちが何をしても
やり返すことだけはしなかった
そう、やり返しても意味はない。そしてこう続く
追い詰め奪うのが正義なら
僕は世界でも敵に回そう
多分僕のこの文章を非難する人もいるだろう。だけど僕は今のところ、この相手を追い詰めて仕事を奪うやり方に賛同する気はないことを表明したい。
悩みは晴れないけど、僕の気持ちに共感してくれる人が1人でもいたら、少しは楽になれそうだ。