僕は子供の頃小説家になりたいと思ったことがある。簡素な物語をいくつか書いたことはあるけど、その夢に具体性はなかった。
2年前、朝井リョウ著『死にがいを求めて生きているの』を読んだとき、絶望感に襲われた。
小説家というのはこういうものを書く人のことなんだ、と受け止めて完全に諦めた。
それまでもいろいろと読書はしてきたけど、こんな感情になったのは初めてだった。
そして新刊『スター』を読み始めた。
凄い…
彼の代表作である『何者』ではラストの強烈なボディブローが効果的だった。
『スター』ではそれと同じくらいの重たいパンチが、
ズドン、ズドン、ズドン、ズドン、と序盤から連続して浴びせられる。
今の時代、SNSでも自分と意見の合うものにしかアクセスしなくなっている。
本を読む時も、もはや自分が考えていることに沿った内容のものを選び、それが書かれていることを確認して安心することが多い。
下手すると読者の意と違うからという理由で低評価を受けることすらある。
それを防ぐために普遍的で当たり障りのない表現が世に溢れていくようになった。
だけどこの『スター』のパンチはそれとは違う。
上へ・下へ・右へ・左へと読者の思考や価値観を思いっきり揺さぶってくる。
読みながら、自分がこれまで軸として考えていたことが揺らいでいくのがわかる。
自分が正しくないように思うし、間違っていないようにも思う。
そんな様々な価値観を受け止めた上で、自分がどう生きていくか、どこに軸を置くのか問われている気がしてくる。
個人的に最後の結末は好きだった。
ここ数ヶ月、ちょうど悩んでいたことが綺麗に吹き飛んだ。
とてもいい読書体験だった。