ソートベーカリー

小麦粉をこねてパンを焼くように、頭の中で考えたことを文章にしていきます。

エストニアパン⑨タルトゥまで

アイリーンが起きた。Facebookをやってるか訊ねるとやっているがなんとロシアでは使えないということでインスタグラムを交換した。今日の予定を訊いてみると行先が駅の近くだというので一緒に行くことにした。アイリーンはロシアでエンジニアの仕事をしているらしい。意外だった。しかし何を聞けばいいかわからず話を広げられない。向こうから兄弟の話などしてくれたので、僕は妹が小学校の先生をしていることを話した。

駅に向かう道は朝歩いた展望台の真下にあたる通路だった。古い石垣がカッコいい。駅に着いてお別れ。こんな感じで一人ずつ友達を作るのをこの旅の目標にしてみよう。駅の窓口で”Tartu”と言うと簡単にチケットが買えた。しかしまだ発車までしばらく時間があったので駅の向こう側のマーケットに行ってみる。比較的新しい建物で新鮮な野菜や果物が並んでいる。かなり印象が良いぞタリン!その奥には一軒ずつ離れてお店が並び、その内の一つがおもちゃ屋さんだった。入ってみると大きなパッケージのスピードカップス、箱の絵が全く異なるハリガリ、ひし形も入っているねじあそびなど会社で扱っているおもちゃが沢山あって面白い。Brainy Bandのゲームも置いてあった。ちなみに全部ロシア語。お店のおばさんがものすごい笑顔でおもちゃを見せてくれたけど、正直何のおもちゃだったのかよくわからなかった。

天気が良かったので噴水の前のベンチに座って読書して過ごす。『教団X』に書かれた、正しい判断力を持たないまま正義面して誰かを叩くことを快感とする世間とそれを利用する人の存在。小説の中の話だけど今の社会にそのまま突き刺さる。読みながらうとうとしていると、隣のベンチで子供と遊んでいたおばあちゃんから起こされる。カバン開けっ放しでベンチで寝てるのは危ないと。そりゃそうだ。ありがとう、おばあちゃん。

 

13時3分発の電車に乗る。とにかく眠い。朝買ったポテチを食べながら車窓の外を見ている。ずーっと林だ。大きな山がない。どこまでも遠くに広がる景色を眺めていると遂に寝てしまう。何個目かの周りに何もない駅で車掌が2回目のチケット確認に来た。さっき見せたじゃん、と思いながら手渡すと「ここがタルトゥだよ?」と言われ、焦って飛び降りる。昨日の船に続き2回目だ。車掌が笑いながら僕の荷物を指さしている。焦りすぎた僕はスーツケースを電車の中に置きっぱなしで降りてしまっていた。教えてもらえてよかった。僕はいつかやらかすと思う。

 

駅を出て驚く。何もない。時刻表と小さなベンチが一つ。外のロータリーにはタクシーも止まっていないしそもそも建物が少ない。僕は降りる駅を間違えたと思ったが、看板には間違いなく”Tartu”と書かれている。本当にここがエストニア第2の都市なのか疑いつつ、この日泊まる予定のホステルに向かって歩く。灰色の建物の前を通り過ぎ、店を1軒も見かけることなくホステルに着いてしまった。ホステルだけはとてもモダンで綺麗でお洒落だが、今回は一人部屋だ。昨日のような同部屋の人と話すきっかけは生まれない。