ソートベーカリー

小麦粉をこねてパンを焼くように、頭の中で考えたことを文章にしていきます。

エストニアパン⑦タリン

外は小雨が降っている。ダウンを着てても寒い。夜9時を過ぎているはずなのにまだ空は少し明るい。日本よりはるかに北にいることを実感する。目の前でバスが走り去る。もしあれに乗っていれば早くユースホステルにたどり着けたかもしれないが、せっかくならこの街を歩きたいと思い見逃すことにした。

 

スマホの地図がないと目的地にたどり着くことができない。冷たい雨の中、左手でスーツケースを引っ張り、右手の薬指と小指で傘を支えて残り3本の指でiPhoneを持つ。時々立ち止まって疲れた手を入れ替える。空も段々暗くなり雨で周りもよく見えないまま30分、何の為に歩いているんだと思いながらようやくその路地を曲がる。う~ん、この辺のはずなんだけど・・・。目の前にホテルはあるが名前が違う。どうなっているんだろう。とりあえずそのホテルへ。受付には眼鏡をかけたお洒落なお兄さんがいた。”Excuse me”と声をかけ、ホステルの場所を尋ねると隣だという。外に出ると確かに暗い看板が細い入り口を示していた。正直、さっきのホテルで寝たかった。

 

入り口のブザーを鳴らすとカチッと音がした。扉を開くとそこには階段が。スーツケースを担いで2階へ上がる。壁にはなんとも表現し難い変な模様が描かれている。さっきのホテルがよかった。受付に男性。ここで12€支払うと部屋に案内される。4人部屋で一人女性がいる。その女性の上のベッドを割り当てられた。ようやく落ち着ける。下の段の女性はポーランド人のアニャというらしい。軽く挨拶をして、出身や旅の目的など少し話した。荷物を整理しているとアニャが喋りだした。”What?”と言いかけて振り向くと彼女がSkypeをしていることに気づく。恥ずかしい。

 

するとシャワーを浴びてきたのかもう一人女の子がラフな格好で入ってきた。ロシア人のアイリーン。なんとサンクトペテルブルグから自転車で旅をしてきているらしい。そして同部屋のもう一人はドイツ人のロビーという男性。ドイツ語で会話ができると思っていなかったので嬉しかった!しかしこれから飲みに行くという。いや、行きたいけど流石に今夜は疲れている。今にも倒れそうだ。部屋に残ってアイリーンと話すことにした。お互いに英語が慣れないのもあって会話が途切れ途切れになったけど楽しかった。

大学3年の時にオープンキャンパスのバイトで覚えたロシア語の挨拶「ズトラーストヴィーティエ」「スパシーバ」など思い出して話すと、日本語の「ありがとう」を覚えてくれた。慣れない言語でも人と話すことが楽しいと思えた。

バスルームでシャワーを浴びる。他のみんなが履いているようなサンダルが欲しいと思う。そういう準備をして来なかった。シャワーの向きが悪く、そして勢いが強すぎて着てきた服を濡らしてしまう。参ったなぁ。さっきのホテルがよかった。