ソートベーカリー

小麦粉をこねてパンを焼くように、頭の中で考えたことを文章にしていきます。

エストニアパン⑪第3の街

この日は何故か寝苦しく、何度も起きては寝てを繰り返していた。親友が死んでしまう夢まで見た。

10時にようやく身体を起こして次の行先を考える。ざっくりと“海に行きたい”と思いパルヌという街に決めた。どうやらリゾート地らしい。前日は電車で移動したが調べてみるとエストニアでは電車よりもバスの方がメジャーな交通手段だとわかったのでタルトゥのバスターミナルへ向かった。看板をいくつか眺めていると共通点に気づく。どうやらエストニア語でバス停や駅のことはjaamと表記するようだ。窓口でスムーズにパルヌ行きのチケットを購入し、バスを待っていると隣に座っていた女の子の被る帽子に日本語が書かれているように見えた。声をかけて見せてもらうと英語のLOCUST(イナゴ)の下にカタカナで「ワタリバッタ」とあった。英語よりカタカナの方が大きかった。これがカッコいいと思って被っているのだろうか。不思議だ。

 

ようやくバスが来た。ここもチケットはQRコード。何でも電子式になっているが慣れてない年寄りなどはいないのだろうかと気になる。僕の地元のような田舎町だと電子慣れしていない人が余計に時間をかけたりしちゃいそうだ。バスの車内は当然のようにwi-fiが使え、乗客は皆PCで作業をしたり動画を観たりしている。そしてエストニアのバスに乗りなれていない日本人は席を間違えていて怒られ、予定になかったはずの街にバスが立ち寄るなどとにかく気が気でないのだった。

 

パルヌに到着。今朝予約したホステルに向かう。通されたのは6人部屋だ。誰か来たら必ず声をかけよう。

パルヌでも散策。なんともモダンな図書館があり、ついつい中に入る。緩いスロープを歩いているうちに自分が今何階にいるのかわからなくなる。そして窓が全面ガラス張りのせいか室内が物凄く暑い!暑いから人が少ないんだよ。人が少ないからアジア人が目立つんだよ。さらに散策を続けるとテニスコートを見つけた。思いっきり強打している人もいれば、やんわりとラリーを続けているおばちゃんもいる。テニスは世界中で老若男女問わず幅広く楽しめて良いなぁ。

噴水のある公園のベンチで読書をする。透き通るような綺麗な空を見上げるとなんだか心地よかった。来る時に見た映画のことを思い出し、前の会社にいたらこんな呑気な一人旅なんて出来なかったよなぁとしみじみ考えていた。

商業施設に入るとVRの体験会をやっていたので4€払って意気揚々と参加する。多分日本では僕はこんな風には振舞えない。調子に乗ってホラー系を選択。やめときゃよかった。めちゃくちゃ怖がって汗びっしょり掻いた。ホラーは苦手なんだった。調べた通りリゾート地というだけあって海が近い。明日は海へ行こうと決めて海パンを買う。サングラスも買おうかと悩んだけど、似合っていない自分が想像できて買わなかった。VRが僕を正気に戻したらしい。

川を渡ったところの景色があまりに綺麗で思わず立ち止まる。噴水の向こうに夕日が沈む穏やかな時間。そうだ、これを体験する為にエストニアに来たんだ。帰ったらエッセイを書いてみよう、とこの時思いついた。